鎌倉時代の名品

1185 - 1333

武士の究極の「いでたち」、
武器・武具をかざる

鎌倉時代になると、空想上の花であるはずの宝相華文まで鋤彫りを重ねて現実感をもたせるなど、工人の意識は写実と技巧へ向かった。王朝期を通じ右肩上がりだった「かざり意識の高揚感」が極限値に近づきつつあったのである。そして武士にとって究極のハレのいでたちである武器・武具にも、金銀のかざりが施されるようになった。
 武器・武具は、戦や儀式という着用の非日常性、着る物を護るという聖性などがら、ひじょうに手厚いかざりがほどこされた。それは、着用者の階層性を明確に反映したものであったが、鎌倉時代後半から南北朝時代になると、中級・下級武士も財力を蓄え、存在感をアピールしうる「いでたち」に凝るようになった。もっとも彼らのかざり意識は、たんに目立つことだけを意図したわけではなく、多分に精神的な面もあった。その証拠に、通常目にふれない太刀の刃文にまで装飾性を求めるようになったのである。

出典:特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館