夫婦に大事なのは“気持ちの再確認”
当たり前のキスも特別なものに

50 First Dates「50回目のファースト・キス（2004）」

結婚につながる
本気の恋ってどんなもの？

なんだか最近、恋人とマンネリ気味。ずっと同じ相手と一緒にいることを決意する“結婚”って、やっぱりすごいことだな…。

ハッピーなオーラに満ちた「50回目ファースト・キス」は、そんな漠然とした不安を抱えた人にこそ、ぜひおすすめしたい映画だ。

結婚がもたらすはちきれんばかりの幸せ。そして結婚へとつながる“本気の恋”に必要なことを、笑いいっぱいに教えてくれるロマンティック・コメディだ。

舞台は、常夏の島・ハワイ。水族館で獣医として働く主人公のヘンリー・ロスは、一夜限りの恋しかできない超プレイボーイの男。

「後腐れのない関係が気楽」とかなんとか言ってるけれど、本気の恋をするのが怖いだけ。実はとんだチキン野郎だ。

ヘンリーはある日、カフェでワッフルを食べている女性ルーシーに出会う。思い切って話しかけるや、その素直さとキュートな笑顔に息をのむヘンリー。「間違いない、一目惚れだ！」

どうやらそれはルーシーも同じ。ヘンリーの飾らない性格とトーク。そして何より、出会ったばかりなのに、一緒にいると笑いが絶えない。一瞬にして2人は惹かれあう。

しかし次の日、再びカフェで顔を合わせたルーシーは、まったくヘンリーのことを忘れてしまったようで、つれない態度。戸惑うヘンリーだったが、実は彼女には秘密が……。

それは遡ること1年前の10月13日。

車で大事故に遭い、頭に重症を負ったルーシーは、一晩寝たらすべて忘れてしまうという短期記憶障害を抱えることに。

つまり彼女は事故に遭ってからというもの、毎日毎日、10月13日という同じ1日を繰り返して生きていた。

そのため、ヘンリーと出会った記憶もリセットされてしまっていたのだ。

なんとも切ない話だが、後腐れのない関係を好んでいたヘンリーにとっては好都合？

しかし彼にとって今回は、“本気の恋”。

それならば「毎日、彼女と恋をすればいい」とばかりに、彼女の元に通いつめて猛アタックを始めるのだ。

「この主人公がもしも自分だったら」と考えてみるとどうだろう？

毎日アプローチをして成功しても、明日には自分の存在すら忘れられてしまう…。心が折れてしまいそうだ。

でもヘンリーは、一途にルーシーを追い求める。それは「彼女の笑顔が大好き。この笑顔をずっと見ていたい。守りたい！」と思ったからに他ならない。

自分をさらけ出し、その上で共に笑い合える存在を見つけたら、それは人生最大の宝物。そしてそれこそが、本気の恋。なんとしても守らなければいけない。

ゆえに、ヘンリーは毎日毎日、ルーシーに想いを伝え続ける。

一見ロマンチックに見えて、必死過ぎる切実な彼のアプローチは、「今のパートナーとマンネリ気味」と感じていた人に、とびきり新鮮な気持ちをくれる。

なぜって「私はこの人の笑顔が見たかったんだ」――そんな付き合った当初の気持ちを確認できるはずだから。

短期記憶障害という深刻な問題が描かれているにも関わらず、すべてを温かい笑いに変えてしまうようなパワーが本作にはある。

人生は時に不公平で、悲しいこともいっぱいある。それでも笑いがあれば、大好きな人の笑顔があれば、人生は必ず輝きを取り戻す。そんな実感に満ち溢れている。

クライマックス。同じ1日を過ごすのではなく、病の恐れを振り切って、夫婦として新しい1日を歩んでいこうと決意するヘンリーとルーシー。

夫婦であれば、どんなに特別だった“初めて”もいつかは日常になるもの。

でも必死な2人の姿を見ているうちに、当たり前のキスも「おやすみ」の一言も、夫婦として積み重ねる一つ一つが、かけがえのないものに思えてくるはずだ。

（成田おり枝）

作品紹介: アダム・サンドラーとドリュー・バリモアが共演したロマンチックなラブ・コメディ。ハワイを舞台に、記憶障害に陥った女性と、彼女に一途な思いを寄せる男性との恋の行方を描く。監督は「N.Y.式ハッピー・セラピー」のピーター・シーガル。

「50回目のファースト・キス」