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親世代と子世代の価値観のギャップ
いったいどうすれば埋められる?
The Wedding Banquet「ウェディング・バンケット(1993)」
(c)Central Motion Picture Corp
結婚を機に鮮明になる
親世代とのギャップ
好きな相手と交際している間はそうでなくても、結婚が絡むと、両親の存在がずっしりと肩にのしかかってくることがある。
特に実感させられるのが、かつては共に暮らし共有していたはずの両親との価値観のズレ。
伝統や常識に囚われた両親が、恋路の邪魔となり、物事が思うように進まないといった経験をしたことのある人もいるのでは?
そうしたシチュエーションをユーモラスに描き出したのが、名匠アン・リー監督の初期の代表作「ウェディング・バンケット」だ。
PHOTO:AFLO
物語の舞台は90年代前半のニューヨーク。台湾の保守的な家庭に育った実業家ウェイトンが主人公。
結婚をテーマに本作を語るうえで、特徴的なのはウェイトンがゲイであるということ。
一見、「共感しにくい?」と思うかもしれないが、結婚を望む両親をもつ“適齢期の独身者”という点においては、案外共通項が多いもの。
いつの時代も、どんな国でも、結婚につきものの苦労はたいして変わらない。そう気づかせてくれるあたりが、また面白い。
「結婚しろ」の重圧…
でも親を落胆させたくない
ニューヨーク在住の実業家ウェイトンは仕事も私生活も順調。そんな彼に、台北に住む母から便りが届く。
「あなたもいい年よ。いつ結婚するの?」
ウェイトンが未婚なのは、同性愛者だから。白人のボーイフレンド、サイモンと同棲中だが、親や親戚には隠している。
(C)Central Motion Picture Corp
何も知らない母は、息子のことを心配して、結婚相談所に名前を勝手に登録。親の“良かれと思って”が、子供どもには厄介だったりするものだ。
サイモンは、両親に真実を告白するようにウェイトンをけしかけるが、年長者を立てる文化圏で育った彼には、親をわざわざ失望させることなどできない。
そんなウェイトンにとって、この世にいそうにない「超ハイスペックな女性が好み」と伝えるのが、親への精一杯の抵抗。
だが、母は条件どおりのインテリ美女をニューヨークに送り込んでくる。さらに、最近心臓発作で倒れた父のたった1つの望みが、これまたヘビー…。
「孫を抱きたい」
死の瀬戸際だった父親が、“孫”という夢のおかげで持ちこたえたと母から聞かされ、さらにウェイトンは追い込まれる。
我が子を結婚させると決めた親の鼻息は荒く、軽く受け流せるものではないようだ。
押しつけてくる親の価値観
子供はどうかわすべき?
サイモンの思いつきで、ウェイトンは彼に好意を寄せる上海出身の女性ウェイウェイと偽装結婚することを決意する。
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その日からカモフラージュ作戦が始動!
“婚約者”であるウェイウェイは、ウェイトンが曜日ごとに履く下着の色まで勉強し、本当の恋人サイモンはただの同居人を装う。
息子の晴れ姿を見るためにニューヨークにやって来たウェイトンの厳格で寡黙な父は、
「お前の結婚に立ち会えて本当にうれしい」と感激しきり。
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若い3人にとっては少し心苦しいが、序盤のハードルはなんとか超えることに成功…!
派手で賑やかな披露宴と
友人総出で煽る新婚初夜
だが、本当の苦労はこれから。ウェイトンが結婚式の形にはこだわらないと言うと、母親から即ダメ出しをくらう。
「簡単にすませる気?誰のための結婚?」
親世代にとっては、結婚は家族全体の問題で、式も盛大にやるのが当たり前。
結局、チャイニーズ・レストランで派手な披露宴が催されることに。
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目隠しをした新婦が、頬に代わる代わるキスをしてくる男性陣の中から新郎を言い当てるゲームなど、くだけた余興で会場はおおいに盛り上がる。
お祭り騒ぎは夜まで収まらず、友人たちは大挙して新婚カップルの寝室を突撃!
勝手に酒盛りを始め、布団に潜り込んだ2人に服を全部脱ぐようけしかける。ちょっと遠慮したいレベルの悪ノリに、花嫁ではなく花婿がぐったりしているのが面白い。
PHOTO:AFLO
嘘まみれの結婚にも
人生の真理あり!?
ウェイトンとウェイウェイの結婚は“偽り”だが、嘘の中にも真理がある。
「共に生活すれば、互いの意見や生活習慣の違いでぶつかることもある。そういう時には、相手の立場になって考えねばならない」
父が2人に贈る餞(はなむけ)の言葉は、私たちも心に留めておきたい。
しかもこのアドバイスは、夫婦だけでなく、もっと広範囲の人間関係にも役に立つことが、物語の後半で明らかになる。
違う価値観を認めれば
思わぬ幸せが訪れる
(C)Central Motion Picture Corp
結婚初夜の“過ち”でウェイトンが花嫁を妊娠させたことが判明し、彼はサイモンと英語で激しく大喧嘩。
英語がわからず、嫁の妊娠を能天気に喜ぶ母に、ついにウェイトンは自分が同性愛者であることを打ち明ける。
母はショックを受けつつも、体調の悪い父には内緒にするよう息子に言いつける。
一方、実は英語が理解できる父は、すべてを知り、サイモンを温かく受け入れる。
「君も私の息子だ。だがこれは2人の秘密。家族のためだ」
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父と息子、老いた夫と妻、同性の恋人と“義理”の父。それぞれの関係において、誰もが相手を思いやり、秘密を守り続けることを選択する。
若い3人の嘘のおかげで、父は本当なら叶わなかった、孫を抱くという夢を実現できるだろう。
価値観の差を無理に埋めようとしないことや、真実をすべてオープンにしないという選択が、穏やかな幸せをもたらしてくれることもある。
この作品が教えてくれた人生のアドバイスは、しかと胸に留めておきたい。