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「今が楽しければ、それでいい」
結婚がもたらす日々の積み重ねが一番大事。
Yomei Ikkagetsu No Hanayome「余命1ヶ月の花嫁(2009)」
(c)"April Bride" Project
出会いは偶然。
それを逃さないことが大切!
“結婚”という言葉には、人生で最高に幸せな瞬間という雰囲気が漂っている。だから結婚をテーマにした映画のほとんどがハッピーな作風なのは言うまでもない。
そんななかでも「余命1ヶ月の花嫁」は、タイトルが伝えるように、悲しい結末を予感させる1本だ。
(c) "April Bride" Project
この映画、よくある“お涙頂戴”の難病モノという印象を受けるが、作品のムードは、切実ながらもさわやか。
同名のドキュメンタリー番組がテレビでも放映され、話題になった実話を映画化した本作は、乳がんによってわずか24歳でこの世を去った長島千恵さんの物語だ。
(c) "April Bride" Project
イベントのコンパニオンの千恵は、間違った会場に入ってしまったのをきっかけに、イベントを仕切る会社の太郎と出会う。意気投合した2人は急接近し、デートを重ねていく。
(c) "April Bride" Project
「俺たち、ちゃんと付き合おうよ」
デートの最中、思いがけない太郎の言葉に喜ぶ千恵。しかし、その表情と胸中は複雑だ。
そう、この時点ですでに千恵は乳がんを患っていたのだ。しかし、彼女は太郎にそれを打ち明けることができない…。
運命的な出会いを果たした2人が、互いにいたわり合いながらも、関係を深めていく姿は、観ているこちら側も素直に引き込まれる。
榮倉奈々の切なさと、うれしさが混じり合った笑顔が胸をキュンとさせるし、瑛太のまっすぐな表情も男らしくて頼もしい!
人生でいちばん楽しい時間。
その一瞬、一瞬を大切にしたい!
やがて、同居生活を始める千恵と太郎。一緒にご飯を食べたり寝たり…この当たり前の描写がとことん温かく、明るい。
最愛の人を見つけた彼らの喜びには、幸せな気分にさせられる。
もしかしたら、人生でいちばん楽しい時間が、そこに流れているのかもしれない。これから結婚を控えた人たちは、この時間こそ大切にしてほしい!
印象的なのは、2人が夜の道を自転車で走るシーン。
これからの人生へ駆け出す喜びと、自転車の疾走感が重なって、この上なく生きる喜びが満ちている。心躍る名シーンだ。
そんな何気ない日常の積み重ねは、映画のオープニングで紹介される、長島千恵さんが遺した言葉とリンクし、知らず知らず胸を締めつけてくる。
(c) "April Bride" Project
「みなさんに明日が来ることは奇跡です。それを知ってるだけで、日常は幸せなことだらけで溢れてます。――長島千恵」
ヒロインの決意は結婚前に
誰もが抱える不安と重なる?
同居生活を送るうち、乳がんだと太郎に知られてしまった千恵は、太郎に別れを切り出す。
(c) "April Bride" Project
「俺、別れないよ」という太郎に対して、千恵はきっぱりと反論する。「私が後悔することになるから」と。
自分の命が長くないと悟っている彼女は、太郎を不幸にしたくないと、身を引こうとするのだ。
自分と一緒にいることで愛は急速に育まれるけれど、すぐにいなくなってしまえば、相手には計り知れない“喪失”だけが残される。それでも一緒にいるべきか…。
本作の設定はやや極端だけれど、これは結婚を前にした多くのカップルが突き当たる問題かもしれない。
目の前のこの人を幸せにすることが、自分にできるのだろうか。自分以外に、もっとふさわしい相手がいるのではないか。
結婚という人生のターニングポイントを迎えるとき、ネガティブな思いや不安が膨れ上がる人もいるだろう。その不安要素が、本作ではたまたま“乳がん”なのだ。
誰かを心から愛していれば、その人のすべてを受け入れられる。その事実に気付いた2人は、「千恵が行ってみたい」と話していた屋久島の地で再び愛を誓う。
「おっぱいはなくなっちゃったけど、代わりに宝物を見つけた」
手術を経て片胸を無くしてしまったものの、太郎がそばにいてくれる幸せを実感する千恵。彼女は改めて彼との生活を決意する。
シンプルな演出の結婚式が
素直に泣かせる!
最悪なことにがんが再発し、千恵は入院することに。彼女のそばにいたい一心の太郎は、病院に寝泊まりするようになる。
(c) "April Bride" Project
その後、千恵は余命一ヶ月と宣告され、病状を更に悪化させていく…。
そんな彼女の夢は“ウェディングドレス”を着ること。太郎はその願いを叶えるため、家族や友人に協力を頼み、結婚式の準備を進める。
ドレス姿の記念撮影だけしようと連れて行かれた千恵だが、そこで待っていたのはサプライズ結婚式。そこには、互いの家族と親しい友人たちが集っていた。
太郎が探し回って、ようやく見つけた思い出の指輪。それを目にした瞬間、純白のウェディングドレス姿の千恵の頬には涙…。
(c) "April Bride" Project
2人の間に流れるかけがえのない時間が、観ているこちらの胸にも切々と刻まれていく。
結婚式シーンとしてはシンプルではあるものの、2人のピュアな想いと、参列者の愛に溢れた素敵な挙式だ。
どんな結婚も、完璧に幸せな未来を約束することはできない。だけど、今、生きているこの瞬間を大切にしてほしい。
映画の前半、千恵が何気なく口にしたセリフが、この結婚式シーンと重なり合い、心に響いてくる。
「今が楽しければ、それでいい」
短い時間しか一緒にいられなかった千恵と太郎。いつくしむように、お互いへの愛を打ち明ける2人の姿は、これから結婚する人たちへの“勇気”になることだろう。
結婚式は単なるセレモニーではない。例えシンプルであろうと2人にとって最高のものになれば、それが一番だ。本作は、そんな当たり前だけど忘れがちなメッセージを投げかけてくれる。
「おはよう。生きてるってすごいことだよね」と、目が覚めた喜びを太郎に語る千恵。
平穏な日常を続けられることこそ、結婚がもたらす最高の幸せかもしれない。そんなごく当たり前の事実を実感させてくれる名編が「余命1ヶ月の花嫁」だ。