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結婚式は“最悪”だけど“最高”!
家族の絆を再確認する絶好の機会
Rachel Getting Married「レイチェルの結婚(2008)」
PHOTO:AFLO
順調に進むとは限らない
結婚式の舞台裏とは
結婚式とは何か?当たり前のようだが、カップルが永遠の愛を誓い合い、親族や知人がそれを祝福する儀式である。
しかし、結婚式にはこの言葉の定義からは想像もできない“副産物”がある。これはケースによって様々だが、「レイチェルの結婚」の場合、ボロボロだった家族が再生する場として結婚式が機能することになるのだ。
もしかしたら結婚に憧れを抱いている人やこれから結婚式に向かう人にとって、本作のシリアスなテーマや腫れ物に触るような語り口には、少々面食らってしまうかもしれない。
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なぜなら、けっしてポジティブなだけじゃない結婚式の舞台裏が赤裸々に描き出されているから。
しかも、サイコサスペンス「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督を務めているあたりからも、単なるお気楽なウェディング映画ではないことが容易に想像できる。
劇中で描かれる主人公家族のトラブルだらけの結婚式は、一種の予防接種といえる。痛みを伴うが、結婚を控える人にとって大きな教訓となるはずだ。
結婚を控える花嫁と
施設帰りの問題児
映画のタイトルにあるように、花嫁になるのはレイチェルという女性。優等生タイプのしっかり者で、誰からも好かれる性格の持ち主だ。
本作の主人公はこのレイチェルではなく、彼女の妹。麻薬依存症の更生施設に入っている問題児、キムだ。
(C) 2008 SONY PICTURES CLASSICS INC. ALL RIGHTS RESERVED.
姉の結婚式に出席するため、家族に邪魔者扱いされているキムが施設から一時帰宅するとことから物語が始まる。
父が暮らす木立に囲まれた庭付きの大きな実家に、久しぶりに帰ってきたキム。
施設帰りということで少々ナーバスな気分だったが、ウェディングドレスをフィッティング中のレイチェルを見つけるや「ウソでしょ!チョー細い!」と目を丸くする。
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美しく幸せオーラ全開の姉を、思わずキムが抱擁。2人とも再会の喜びを分かち合い、気まずさなどすぐに消し飛んだ……ように見えた。
ところが、ささいなことから2人の間に不協和音が流れ始める。
レイチェルは我が家での“手作りウェディングパーティ”を成功させようと、てんてこ舞い状態。対して、何でも思ったことを口に出してしまうキムは、次々とつまらない不満をぶつけ、結婚式の準備に横槍を入れていく。
見て見ぬふりをしてきた
姉妹がさらけ出す本音
新婦の付添人代表を、妹の自分ではなく仕切り屋の友達に任せたことが許せないキムは「どうして私じゃないの!?」と激昂。両家の親戚が一同に集まる婚前パーティでのスピーチで、
「この場をかりて偉大な姉に謝っておきたいの。これまでのこと、とにかく“全部”。本気でそう思うわ」
と素直な気持ちを言葉にするものの、恥ずかしさを紛らわせるためか、ベラベラと更正施設での“あるある話”を持ち出し、その場の雰囲気を完全にしらけさせてしまう。
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これには、結婚式をつつがなく進めたいレイチェルもついに怒りを爆発させる。
「これまで家族の中心はいつもキムだった。でもこれは私の結婚式なのよ。もう好きなようにさせて!」
厄介者の妹の尻拭いばかりさせられてきた姉がついに漏らしてしまった一言。本音だった。
徐々に明らかになる
過去に囚われた家族像
そんな姉妹を和ませようとしたのか、新郎のシドニーが義父・ポールを相手に、男のプライドをかけた皿洗い対決を開催。
どっちが早く食洗機に食器を並べられるか、という何ともバカバカしいバトルだったが、一同は大盛り上がり。ギクシャクしていた姉妹にも笑顔が戻る。
しかし、この楽しい一幕のさなか、一枚の子ども用の皿を手にしたポールの顔が突然雲り、ゲームを中断させてしまう。
じつはこの家族、何年も前に幼い末の弟を亡くしてしまっていた。しかもそれはキムがベビーシッターをしている最中の事故だった。
キムはその責任を感じ、酒やクスリに逃避。いまだに破滅的な生活を送っていた。一方のレイチェルとポールは、そんなキムを責めることもできず、必要以上に気を遣っていた。
結婚式というハレの場に何となく誤魔化されていたが、家族はその喪失感を癒せていない。皿洗い対決によって、家族が抱えていた根本的な問題がハッキリしてしまったのだ。
そんな最悪の空気のなか、結婚式当日がやってくる……。
言葉がなくても心が通う
結婚式に漂う一体感
前日の雨も上がり、清々しい青空が広がった。
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ハワイ出身の新郎に合わせて、多国籍な衣装で式が行われることに。キムやブライズメイドたちも凛としたサリーに袖を通す。花で彩られた開放的な庭からは心地のいいウェデイングソングが聞こえてくる。
レイチェルはキムの先導でシドニーが待つ誓いの場へゆっくりと歩み出る。
レイチェル「あなたを激しく、そして優しく愛します。あなたと美しい人生を歩んでいきたい」
シドニー「僕は音楽を聞いていればそれで幸せだった。君に出会い、君の声を聞いた。君は僕が聴いた最も美しい音楽だ」
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この最高に率直で、気の利いた誓いの言葉は、すべて包みこむような愛にあふれていた。家族は前日までの衝突を引きずっていたが、この時だけはレイチェルのことを心から祝福する。
弟との悲しい別れ以降、初めて家族が心を通わせた瞬間だったのかもしれない。
結婚式でのぶつかり合いも
かけがえのない時間
ウェディングに大満足の参列者たちが笑顔で帰路につくなか、キムはこれまでの関係を清算しようと、改めて誠実に家族と向き合う。
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結婚によって親戚は増えたが、行き着くところ、キムはこの家族にしか居場所がないと気づいたのかもしれない。
結婚式は、間違いなく人生におけるビッグイベント。キムやレイチェルのように気持ち高ぶって、それぞれの本心がむき出しになってしまうのも当然のこと。
しかし、結婚を機にはなればなれになる家族にとって、この本音のぶつかり合いもかけがえのない時間なのだ。
結婚式は新郎と新婦のためのもの、としてしまいがちだが、家族の絆を再確認する絶好の機会でもあることを、この映画は教えてくれる。