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結婚後はこんな二人になりたい!理想の夫婦像に出会える映画10

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世界の果てで育んだ素朴な夫婦愛
実在の画家の半生に観る“究極の理想”

Maudie「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス(2016)」

© 2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

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実在のカナダ人画家の夫婦の軌跡
不器用な、唯一無二の愛が美しい

“理想の夫婦”と言えば、あなたはどんな夫婦を思い浮かべますか?
 
ずっと恋人同士のように情熱的な夫婦?
何でも話し合える親友のような夫婦?
 
今回ご紹介する「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」には、残念ながら情熱的な夫婦も親友のような夫婦もでてきません。
 
その代わりに、カナダで最も有名な画家モード・ルイス(1903~1970年)と夫・エベレットとの、穏やかで心に染みわたるほど優しい夫婦の愛が描かれています。
 
若年性関節リウマチを患い、不自由な体で差別を受けて育ったモードと、孤児院育ちで学もないはみ出し者のエベレット。
 
社会から孤立した2人が、最悪の出会いから少しずつ愛を育み、寄り添うように生涯を共にした軌跡を、モードが描いたカラフルで愛らしいアートで彩りながら映し出します。
 
夫婦に扮するのは、「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたサリー・ホーキンスと、いぶし銀の魅力が光るイーサン・ホーク。
 
まるで本人が乗り移ったかのような巧みな演技で、2人の間にある不器用でさりげない愛情をみごとな空気感で届けてくれます。
 
互いにたった1人の生涯の伴侶を愛し、愛されたモードとエベレット。何も持っていなくても、他に誰もいなくても、この人がいれば幸せと思える夫婦の愛に本物の感動を味わってください。

村のはみ出し者同士が、
小さな家で育むいたわりの夫婦愛

荒涼とした自然が広がる海辺の町、カナダ東部のノバスコシア州。

幼い頃から重いリウマチを患い、手足が不自由なモード(サリー・ホーキンス)は、両親の死後に叔母の家に預けられ厄介者扱いされていました。

ある日、魚の行商を生業とするエベレット(イーサン・ホーク)が商店に家政婦募集の貼り紙をしにきます。

偶然、募集を知ったモードは、叔母の家から出て自立するために、エベレットが1人で暮らす小さな家での住み込み家政婦を志願します。

はじめは、体が小さくて不自由なモードを見て採用しないエベレットでしたが、他に応募者もなく、しぶしぶ試験的にモードを雇うことに。


©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

しかし、村の辺境に建つ小さな家には電気もガスも水道もなく、さらに孤児院育ちで他人に心を開かないエベレットとの生活は、モードにとって苦難の連続でした。

ことあるごとにエベレットから「俺がボスだ」「出ていけ」と怒鳴られながらも、帰る場所がないモードはじっと耐えていました。しかし2か月が過ぎたある日、理不尽に顔を殴られたモードは、怒りをあらわにするのでした。

そんな困難な日々の中で、モードは自分を慰めるように家の壁や窓、ポットや缶などに昔から大好きだった絵を描き始めます。

ある日、NYからカナダに休暇に訪れていたサンドラ(カリ・マチェット)が、偶然エベレットの家を訪れ、壁に描かれたモードの絵を見つけます。一目でその才能を見抜いたサンドラは、その後、彼女に絵の制作を依頼するように。

モードは絵が売れる喜びを知り、ますます創作に励みだし、そんな彼女の才能を意外に思いながらも認め始めるエベレット。

2人は不器用ながらも少しずつ、少しずつ距離を縮めていき、やがてささやかな結婚式を挙げます。

小さな家で向き合いながら、慎ましい生活を送りますが、モードの絵が雑誌やテレビで取り上げられるようになり、連日、家にはたくさんのお客が押し寄せるようになっていき…。

最悪な関係から芽生える信頼と絆
小さな家にそっと灯る美しい愛の光


©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

本作の見どころは何といってもモードとエベレットの夫婦愛ですが、2人は最初から惹かれ合ったわけではなく、むしろ酷すぎる主従関係から始まりました。

でも、最悪な関係から始まった2人が、少しずつ互いの良さを認め合い、さりげない優しさをかけ合って絆を深めていく様子に、感動もひとしお! 愛の奇跡を目の当たりにしているような、胸震える幸福感が味わえます。

自分の酷い態度に苦い後悔を隠し持っているエベレットの優しさを見抜きながらも、でも決して下手にでず、上手に自分の要求を伝えていくモード。

2人は、わずか4メートル四方の小さな家でずっと2人だけで向き合いながら、相手を知り、相手を助け、2人だけの愛を育んでいきます。

「愛している」なんて甘い言葉を交わすことは1度もなく、記念日のお祝いももちろんありませんが、共に暮らす慎ましい日々の中に深まる愛が散りばめられています。

不器用なエベレットのささやかな愛情表現はモードにだけはしっかりと伝わり、モードもまたその幸福感を描くように古ぼけたエベレットの家を色鮮やかなアートで彩り、彼自身の人生をも豊かに変えていきます。

この、観ているこちらまでじんわりと温かい幸福感に包んでくれる2人の愛。その素朴な清らかさには観ているだけで癒され、これが実話なのだと思うとただただ胸を打たれます。

そんな2人の愛に触れると、“理想の夫婦とは?”と改めて考えずにはいられません。

互いに惹かれ合って結婚し、子育てや倦怠期などたくさんの荒波を乗り越えて理想の夫婦になっていくのも1つの形。

ですが、モードとエベレットのように地味で平凡な日々の中で、肩を寄せ合い、互いだけを見つめて唯一の愛を育てていく、この美しさ。

「お前は俺の女房だ。ずっとそうだ。俺を…、俺を捨てるな」
「私は…、あなたと暮らすのが幸せ。幸せよ」

愛のかけらもないところから、こう語り合うまで育くまれたかけがえのない絆に、“究極に理想的な夫婦像”を見た気がします。

辺境の地で2人が教えてくれる
“本当の豊かさ、幸せ”とは?


©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

2人が認め合い、愛を育んでいく過程にはモードの“賢さ”がとても光っていて、これは女性としてぜひ見習いところです。

「俺がボスだ」といばるエベレットの亭主関白的な性格はすぐに変わるものではなく、とても扱いにくい人でした。

でも、気難しい彼の性格をよく理解したモードは、彼のプライドを傷つけないようにしながら誘導する、とても上手な話し方をします。

モードの絵が売れ出し、エベレットが不機嫌になった時には「共同経営者だもの。この絵の半分はあなたのものよ」と、彼の自尊心をくすぐります。

するとエベレットは、絵を描くモードの隣で家事を手伝うようになるのですから、偉そうにしながらも実は賢いモードの手の平の上であったことがわかりますね。

モードは体が不自由なハンデはありましたが、決して卑屈になることのないチャレンジの人でした。


PHOTO:AFLO

遠出ができず、生涯を30マイルの範囲内で過ごしたと言われる彼女は、見方によっては、“気難しい夫と貧しく暮らす、不自由な障害者”です。

彼女は小さな家の小さな窓からしか外の世界を見られませんでしたが、そこに広がる荒涼とした景色も彼女の心のフィルターを通せば、生命の喜びに満ち溢れたカラフルな世界に変わり、家やキャンバスを色鮮やかに彩っていったのです。

モードとエベレットの愛は華やかさも何もない、とても地味なものだったと言えるかもしれません。

でも、2人の心はどこまでも広く、深く、鮮やかな幸せに満ち満ちていました。

何もないけれど、あなたがいる。
誰もいないけど、あなただけは理解してくれる。

こんな夫婦の絆を得た2人に、“本当の豊かさ、本当の幸せ”を教えられます。

エンディングに、実際の映像が流れて本人たちが映し出されますので、最後まで楽しみに観てくださいね。

そこにはとても柔和な笑顔のエベレットが映っていて、愛を知らなかった彼がモードとの暮らしでどんなに幸せを手にしたかを推し量ることができます。

女性目線でも男性目線でも楽しめる作品ですので、結婚前はもちろん、結婚後にも夫婦で一緒に観て、「夫婦っていいね」って確かめ合ってくださいね。

(木村みずほ)

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