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ありきたりの“今日”が大事
愛や人生の尊さを教えてくれる
About Time「アバウト・タイム~愛おしい時間について~(2013)」
PHOTO:AFLO
ずっと続く結婚生活
純粋な気持ちを大切に
恋の始めの頃を思い出してみよう。
誰かと出会い、その人が気になったら、また会いたい、親しくなりたい、好かれたい!と気持ちも期待も高まっていく。こんな時期は毎日が心ウキウキで、何もかもが眩しいくらい。
それなのに、恋人同士になり、夫婦になると、いつの間にか、“あの頃のときめきはどこへ?”という状態の人たちが増えてくる。
長く続いていく結婚生活において、出会った頃のみずみずしい心を持ち続けるのは、やはり難しいものなのだろう。
そんな時、助けになってくれる一本が、「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」。
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モテたことのない若い男性の視点から語られる愛の物語だが、恋愛や結婚の喜びだけでなく、家族の絆や人生の尊さに気付かせてくれる、ユニークで心に染みるドラマなのだ。
特殊な能力を使っても
相手の心は変えられない?
映画の舞台は現代のイギリス。南西部の海辺の町に両親、妹、叔父と仲良く暮らす、地味でオクテな若者ティムが主人公。
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彼は21歳になると、一族の男性に代々備わっているタイムトラベル能力が覚醒する。「金儲けに走ると愛も友情も失って人生を台無しにする」と父に忠告されたティムは、こんなアイデアを思いつく。
「このパワーで彼女が作れたらいいな」。
ただこの能力、自分に関係のある過去にしか戻れず、未来や歴史にはタッチできないという制約がある。また、移動先での決断が、彼自身のその後を左右するという。
チャンスが訪れたのは夏。家にしばらく滞在することになった妹の友人に、ティムは一目で恋に落ちる。
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彼女の前でヘマをやらかしたら、すぐに戻ってやり直し。少しはイケてる感じも出せたかも……?しかし、告白だけは、どんなパターンで試しても、毎回フラれて終わる。
“教訓:タイムトラベルで愛は手に入らない”
設定はSF風だが、タイムトラベルの効力が限られていることもあって、物語はリアリティと普遍性を保っている。ティムは依然として女性と縁がなく、宝の持ち腐れといったところだ。
愛を獲得するには
努力と真心が必要!?
弁護士になるためにロンドンに引っ越したティムは、寂しい半年を過ごした後、暗闇の中で酒を飲む一風変わったバーに同僚と出かける。そこで会話が弾んだ相手がメアリーだ。
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店の外で顔を合わせた彼女に瞬く間に恋したティムは、幸先良く連絡先をゲットする。
“君に出会って人生が始まった”
と思いきや、人助けをするためメアリーと出会った時間に別の場所へタイムトラベルしたせいで、なんと彼女とは出会っていないことに!
しかたなく、彼女がやって来そうな写真展の会場で、ひたすら待つ。時には普通に時間をかけることも必要なのだ。
ようやくメアリーをつかまえたティムは、初対面やデート、初めての夜やプロポーズを、何度も時を遡って“修正”する。自分に都合良く変えるためだけでなく、彼女が望む形にするためにも。
このパートには、ボーイ・ミーツ・ガールものの明るく軽快な味わいがある。非モテ男子が愛をゲットしようと悪戦苦闘する姿がユーモラスで、ちょっぴり痛くて、微笑ましい。
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気取りのない結婚式は
ハッピーなオーラが全開
そして迎える2人の結婚式が最高にチャーミングだ。
花びらを重ねたような袖の付いた、真っ赤なドレス姿の花嫁が新鮮。白とピンクのティアード・ワンピースにラベンダー色のスニーカーを合わせた、ティムの妹の正装(?)もファンキーでキュートだ。
(C) 2015 Universal Studios.All Rights Reserved.
天気はあいにくの雨だが、ティムは能力を使って日取りを変えようとはしない。メアリーの屈託のない笑顔から、この瞬間が嬉しくてしかたがないといった幸福感が伝わってくる。
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結婚式の後で、ティムの父が参列者を前に行なうスピーチもまた印象的だ。
「人生は結局同じなんだ。年を取り、同じ話を繰り返す。でも誰かと結婚してほしい。優しい人と」
これから結婚するすべての人にとって、とても意義のあるアドバイスだと思う。
ここで終わりでも、良くできたロマンチック・コメディである。だが、物語はさらに進み、人生の本質へと迫っていく。
人生を輝かせる
極意はココにあり!
子どもを授かって父親となったティムに、父の死という不幸が訪れる。
タイムトラベルさえすれば生前の父に自由に会いに行けるが、その代わりに、ティムがメアリーと築いた家庭の未来は閉ざされる。
2人の初めての出会いが取り消されたように、遺伝子レベルでの“出会い”といえる妊娠が、つまり、彼らの子どもが、本来の容姿とは違うものに変わってしまうのだ。
タイトルの“アバウト・タイム”とは、“時間について”という意味であり、“そろそろ~~する頃だね”という慣用表現でもある。もしかしたら、決断をためらうティムに向けた父の辞世の挨拶なのかもしれない。
(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
息子の表情から、永遠の別れが来たことを察した父の最後の言葉は、
“1日を過ごしたら、もう一度同じ日を過ごしなさい。一度目は気付かなかった素晴らしいことに気付くよ。”
ティムは父の教えを実践し、毎日ささやかな出来事にも喜びを見出すようになる。
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やがて、なにげない日常の中に幸せがあると悟り、2度と過去に戻らないと決める。
「僕たちは一緒に人生をタイムトラベルしている。今を精一杯生きてすばらしい日々をかみしめよう」
自分も達観する前のティムのように、今日という日を過ごすために未来からやって来たとしたら?
ここに、1日1日をもっと輝かせるためのヒントがあるように思う。